Asia Pacificを中心としたグローバルビジネスの現況と見通し

大仰なタイトルからすると大した内容ではないですが、Asia Pacificを中心としたグローバルビジネスの現況と見通しに関して、ファクトをざっとまとめてみました。特に、今後のオフショアの拠点として、中国、インドのLabor Costやカントリーリスクが上昇する中、グローバルマーケットの中で特にEU諸国に対するアフリカのプレゼンスが高まっているという見通しは、まさに昨年末に中央アフリカに位置するルワンダにて関与した医療政策立案、眼科医療に特化したCenter Of Excellence設立構想、及び今後5−10年のグローバル展開を踏まえたオフショアへの戦略的布石という考え方とも共通するものがあります。


グローバルビジネスにおけるガバナンスやコストをどう考えるかという一方で、アービトラージ、急成長マーケットへの投資、ポートフォリオマネジメント、リスク分散、規模の経済性、タックスストラクチャーといった観点からも、グローバルにビジネスを展開するというモデルは今後も有用となりえるかと思いますが、一方で某OSメーカーであったり、某大手製薬メーカーのように、米国本社の意思決定のもと、各国の支社が戦略機能を持たず単なる営業会社に成り下がっているようなガバナンス体制では、そのメリットを十分に享受しきることは出来ず、ある程度各国に分散するプロフェッショナルファームのような、自立分散協調的なパートナーシップモデル、ネットワークのノードが分散するモデルが、今後のグローバルビジネスに求められるあり方ではないかと考えています。(もちろん事業ドメインや組織設計により最適な戦略は変化します)


・2000年度のアジア各国のGDP、人口を見ると、中国・インド・ASEANGDP合計は日本の半分以下となっている。一方で、2010年度のデータを見ると、中国・インド・ASEANGDP合計は日本の1.6倍と圧倒的に上回る結果に。情勢はここ10年で大きく変化している。


▼ 2000年度と2010年度のデータ比較

 −日本:人口1.27億人、GDP 4兆6688億ドル → 人口1.27億人、GDP 5兆4800億ドル
 −中国:人口13億、GDP 1兆1985億ドル → 人口13.4億人、GDP 5兆8900億ドル
 −インド:人口11億、GDP4619億ドル → 人口12億人、GDP 1兆4500億ドル
 −ASEAN:人口11億、GDP4619億ドル → 人口6億人、GDP 1兆6000億ドル


・世界経済の中心軸がアジアに移行すると同時に、ナイジェリア、コンゴ、ザイール等の西アフリカの資源、チュニジアリビア等の北アフリカ産業の発展が期待されており、今後EU諸国に対するプレゼンスの向上が見込まれる。


・アジアの産業三日月地帯とは、日本、韓国、中国、フィリピン、カンボジアベトナム、タイ、ラオスブータンバングラディシュ、ミャンマー、インド、スリランカといった地帯を包括するエリアを指す。同時に、中国広東省からベトナムラオス、タイ、ミャンマーバングラディシュ、インド北部、湾岸地域にかけ、低コストの労働力を活用した労働集約型産業の新たな集積として、北緯23度線産業ベルトが台頭してきている。


中国経済のポイントとしては、各国の平均と比較して、固定資本形成が40%と圧倒的に高く、一方で以外なことに個人消費率が35%と低い。個人消費は量で目立っているが、持続性には疑問が残る。大学卒が増えている一方で、世界の中国に期待する役割は、依然として本社、研究所ではなく、工場としての位置づけがメインとなっており、工場ワーカーの不足が起こりつつある。また、ホワイトカラーの年俸(50-100万元 = 65M - 130M JPY)とブルーカラーの年俸(24,000元 = 3.12M JPY)と20倍〜40倍程度の格差となっている。また、現在富裕層の海外脱出が顕著になりつつある。


・インドでは、厳しい規制、複雑な許認可で企業が育ちにくい土壌となっており、国内市場では国有企業優先となってしまっている。カーストは崩れつつあるが、カントリーリスクは依然高い。


IMF成長率見通しによれば、中国、インド、ASEAN、世界を比較した場合の年次別成長率は以下のとおり。
 2010年:中国 +10.3%、インド +9.7%、ASEAN +4.7%、世界 +3.0%
 2011年:中国 +9.6%、インド +8.4%、ASEAN +5.5%、世界 +4.4%
 2012年:中国 +9.5%、インド +8.5%、ASEAN +5.7%、世界 +4.5%
ASEANの中でも成長率が高いのは、シンガポールインドネシア、フィリピン、ラオス等。各国の中で三次元分業が進んでいるため、一国内での産業連関が完結せず、連携が不可避。


シンガポールは成長性が高い上に、中国語・英語が堪能な人材が豊富であり、また政治のリーダーシップが強いため、安定感がある。また、各種の税務インセンティブがあり、外資の誘致に積極的であり、各国と経済相互協定を積極的に締結している。また会計基準国際財務報告基準(IFRS)に基本的に準拠。法人税率17.5%、個人所得税率20%だが、そこからさらに各種優遇税制がある。ただしクロスボーダーのトランザクションが多く、国際税務リスクは発生しやすい。一人あたりGDP水準はすでに日本を超えていて、うち3割程度は製造業が占めているが、人件費、賃料などのコスト増により製造は縮小傾向、高付加価値機能へのさらなるシフトが必要。地域統括拠点としてのシンガポールの活用としては、地域統括本部(RHQ)インセンティブキャピタルゲイン非課税、非通常居住者(NOR)スキーム、各国との租税条約といったメリットがある(一方で、日本のタックスヘイブン課税などによる課題もあり)。近年は、日本の税制改正を追い風として、単なる事業統括会社から事業統括持ち株会社形態への移行や統括会社としての権限と機能の拡充が進んでいる。


・タイは従来は比較的安定した政治体制と言われていたが、2008年度の空港閉鎖、2010年度の反政府デモに代表されるように、暴動による事業活動停止といったカントリーリスクが高まっている。単なる工場機能の移転という観点ではなく、「経営の現地化」が求められる。法人税、関税等が担当税務官の裁量により取り扱いが変わるケースも多く、第三者による監査が重要。経営比率に見合った経営関与度合いの検討が必要。デロイトトーマツによる東南アジアにおけるリスクファクターとして、1)政治、法律・規制、2)取引先・合併先、3)言語・文化、4)コーポレートガバナンスの四点が挙げられている。また、トーマツバイリンガル人員数の内訳を見ると、Asia Pacific、Americas、EMEA(Euro / Middile East / Africa)、となっており、すでにアジアの比率が大きく高まっていることが伺える。


参考文献:
日本経済新聞
・東南アジア日経企業経営支援会
監査法人トーマツ / Deloitte Japanese Service Group